2008/12/18

Saya's 薬学ニュース vol.32-貧しい国への支援(糖尿病とインスリン)/超多剤耐性結核菌/「センサーチップ搭載の薬」/医学部に薬学の授業を導入/「遠隔予防医療相談システム」

<Today's news>
1. 最貧国の子供たちへ、インスリンと糖尿病ケアの無償提供
2. 超多剤耐性結核の治療に大きな一歩
3. 「センサーチップ搭載の薬」で、身体反応をモニター
4.
山形大医学部に医薬品安全対策の講義―国内初
おまけ. KDDI・NEC・慶応大、「遠隔予防医療相談システム」の実験を開始~公民館で画面を共有しながら相談可能

最貧国の子供たちへ、インスリンと糖尿病ケアの無償提供
2008年12月5日-ノボ ノルディスク ファーマ株式会社プレリリース

[要訳&コメント]
ノボ ノルディスク社は、世界で最も貧しい国々の10,000人の子どもたちに、インスリンの無償提供を含む糖尿病ケアの提供を行うことを発表しました。これは、「糖尿病とともに生きる子供たちの未来を変える」というプログラムで、2009年から5年間にわたって行うものです。
先進国において1型糖尿病の子供は寿命を全うできる可能性があるのに対し、サハラ以南のアフリカで生まれた子供が1型糖尿病と診断された場合、その寿命は1年にも満たないのが現状です。

アフリカにおける1型糖尿病の子供たち(0-14歳未満)は、38,000人と推定されるという。その子供たちが、インスリンを手に入れられないことで、1年未満の寿命で亡くなっていく…こんな事実を皆さんはご存知でしたか。食べ物が手に入らず飢餓により亡くなっていくことが多い貧しい地域では、インスリンなどの薬剤はどれだけ高価なものとして映っているのだろう。先進国でも国内で薬が承認されておらず、海外から全額負担で購入している人や、海外で移植をしに日本を発つ人たちもいる。そのくらいの、いやそれ以上に難しいことなのかもしれない。飢餓や感染症ばかりに目が行っていたが、糖尿病も支援の一つになるのだと、この記事で改めて教えられた。この子供たちは、先進国で生まれていれば…と考えることもあるのだろうか。それとも、その先進国という言葉を知らずに亡くなっていくのだろうか。

超多剤耐性結核の治療に大きな一歩
2008年12月8日-週刊医学界新聞

[要訳&コメント]
財団法人微生物化学研究会は超多剤耐性結核菌(XDR‐TB)に有効な治療薬の開発をめざし,米国のリリー結核創薬イニシアチブとの共同開発研究を開始したことを発表した。
微生物代謝産物から発見した化合物CPZEN‐45は、「XDR‐TBに有効で,10剤耐性結核菌にも高い有効性がある」「高い安全性を有する」「耐性菌の出現頻度が極めて低い」といった特徴をもつため、結核菌に対する有効性が期待されている。

結核菌は、一般の人からは「過去の話」のような印象を持たれているかもしれないが、今でも死亡原因第4位に位置する驚異の疾患であることを忘れてはならない。それも、今まで効いていた薬に耐性が出始めていることが原因である。抗生剤・抗菌剤には、必ずと言っていいほど耐性が作られる時が来る。それが遅いか早いか、という話だけであり、新しい薬が開発されたからといって安心してはいられない。さらなる開発が必要なのである。

「センサーチップ搭載の薬」で、身体反応をモニター
2008/12/09-Wired Vision


[要訳&コメント]
あと数年のうちには、錠剤を口にするという行為が、ただ薬を飲んで効いてくれるのを待つ、という以上の意味を持つようになるかもしれない。
薬の効果を簡単にモニターできるシステムを開発した。超小型コンピューターとセンサーを薬剤に組み込み、携帯電話やインターネットにつなぐというものだ。
この技術を利用すれば、患者の重要データを自動的に収集し、糖尿病や高血圧といった慢性疾患の管理に役立てることが可能になる。特に、一定量の投薬に対する患者の反応を詳細に追跡するのに役立つとみられる。
参考原文:WIRED NEWS 原文(English)

この技術で吸収や分布、代謝や排せつの速度が測れれば、薬物動態のチェックなどにも応用できるのではないだろうか。この技術がどこまで使えるものなのかがはっきり分からないので何とも言えないが、技術の進歩はここまで来たか…といった興味深い記事だったので紹介した。

山形大医学部に医薬品安全対策の講義―国内初
2008/12/08 11:00-キャリアブレイン

[要訳&コメント]
山形大医学部は2010年度から、医薬品・医療機器の承認審査や市販後安全対策、薬害の問題などについて総合的に学ぶ講義を、医学部内に新しく設置する。薬害問題や医薬品の規制の仕組みなどについて系統立って学ぶ講義の開設は、全国でも初の試みになる。
講義の内容は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が実施している医薬品や医療機器の承認審査や、市販後の安全対策、副作用の被害拡大防止の方法のほか、薬害の問題などについて
山形大医学部では、この他にも現在診療科離れが起きている小児科や産科、救急医学、外科の4科のいずれかを研修内容として選択することで、一部の授業料を免除するなどの取り組みも国内初で行っている。

薬害を学ぶことで、薬の恐ろしさなどを患者の訴えから学ぶことはできるだろうが、これがどこまで学生の胸に響くか...見守っていきたい内容である。西洋医学においては、症状などから診断を下すまでに力を入れ、一度診断が下ればルーチンのように薬が決定される。一度出た薬はなかなか削除されないのが現状ではないだろうか。一人の患者に対しこんなにも薬の種類が処方されているのは、日本くらいではないだろうか、と感じるが、その辺医師がどのように考えているのかディスカッションしたい内容である。薬はできるだけ減らす方向で、さらに最小限の薬で症状を維持する。この点をこれらの教育から気づいてもらえれば、意味のある講義だと思うのだが。

おまけ...在宅医療
KDDI・NEC・慶応大、「遠隔予防医療相談システム」の実験を開始~公民館で画面を共有しながら相談可能
2008年12月8日 18:24-RBB Today

[要訳&コメント]
慶応義塾、NEC、KDDIの3者は8日、同大学の「コ・モビリティ社会の創成プロジェクト」 の一環として、「遠隔予防医療相談システム」の実証実験を開始した。
採血された血液のサラサラ度合いを血液レオロジー測定装置で検出し、データをインターネットで都心の医師に送信し、住民と医師や健康コンシェルジュスタッフが血液データをはじめとする健康データをコミュニケーション端末の画面上で共有しながら、健康相談や助言などを行うことが可能となる。医師と定期的に話すことで住民の安心感を高め、QOL (Quality of Life) の向上、中長期的には自治体の医療費負担の削減につなげることが目標とのこと。なお、血液サラサラ度合いがわかる動画を遠隔で住民と医師が共有するのは、世界初の試みとなる。
                    *遠隔予防医療相談システム概要

Saya's 薬学ニュース vol.10のおまけでもIntelによる、TV電話を使った在宅医療患者のための医療管理システムを紹介した。Intelでは患者の血圧や心拍数のデータ管理によるものだが、今回の慶応大学では血液のサラサラ度合を機械を使って遠隔で測定する事が可能になるという。これらはいずでも、へき地における医師不足などの問題に対し、予防や未病の観点で期待ができる内容なので紹介した。いつでも相談できる、というイ環境は、市民にとっても安心材料となるだろう。

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