2008/12/23

Saya's 薬学ニュース vol.37-医療安全情報を何故受け取らない?/薬剤ミス・過誤・事故/高血圧治療の新薬/レセプトオンライン請求の義務化撤廃を求め初の提訴/うつ病の勉強しませんか?

<Today's news>
1. <医療安全情報>事故例集 受け取りは全国の病院の半数以下
2. 禁忌薬投与などで注意喚起‐薬剤関連事故の30件を分析 
3. 高血圧症治療薬「CS-866AZ」の製造承認申請を発表
4. 質問すると医師が不機嫌に

おまけ. オンライン請求の義務化撤回求め初の提訴へ「うつ病の完全寛解を目指した薬物療法 Part.1」

<医療安全情報>事故例集 受け取りは全国の病院の半数以下
12月10日15時2分- 毎日新聞

[要訳&コメント]
医療事故や医療ミスの実例を紹介して再発防止に役立ててもらおうと、厚生労働省所管の財団法人・日本医療機能評価機構が無料配布している「医療安全情報」を、全国約9000病院の過半数が受け取ってないことが分かった。
同機構に集まる事故報告は年間1500件近くに上り、発生原因や当事者の勤務状態なども分析している。医療安全情報の内容について、病院から不満などは寄せられておらず、関心の低さが受け取らない主な理由とみられる。

医療事故や医療ミスは、過去の事例から反省して改善点を見つけていくことが最も重要なことであり、それを国が引き受けて行っているというのに、生かされていない現状があることを皆さんは知っていたでしょうか。もっと多くの人に知っていただきたいと思い、この記事を紹介しました。

禁忌薬投与などで注意喚起‐薬剤関連事故の30件を分析
2008年12月12日-薬事日報

[要訳&コメント]
日本医療機能評価機構は、7~9月に報告された医療事故情報の状況をまとめた報告書を公表した。個別テーマで、薬剤に関連した医療事故30件の分析を行った結果、注射器の取り違えや、禁忌薬の投与などが発生していることから、注意を喚起した。
薬剤に関連したヒヤリ・ハット事例の分析では、総発生数1560件のうち「薬剤量間違い」が287件と最も多く、次いで「速度間違い」215件、「薬剤間違い」150件が続く。禁忌薬に関した発生状況は総数57件で、内訳は「薬物過敏」が31件と最も多く、「配合」が18件と続く。

「薬剤間違い」よりも、「薬剤量間違い」のほうが2倍ほど多い。薬剤名の混同などもよく調剤ミスとして挙げられる項目だが、これだけでなく、量計算に関しても集中力を切らさずに行うことが重要であることが考えられる。
ここでひとつカナダの状況を挙げておく。カナダでは、計数調剤はテクニシャンがメインに行う事になっているが、日本のようにPTPシートでの提供より、ボトルから処方された数の薬(裸錠)を計量し、円筒のケースに入れて渡すのメインである。円筒ケースに入った薬を数える患者はまずいないようで、量に関するクレームはほとんどないという。日本では日常茶飯事のクレームが、ここカナダでは非常識のようなとられ方をされる。文化の差なのか、計数調剤の方法によるものなのか。興味深い内容だったので紹介してみることにした。

高血圧症治療薬「CS-866AZ」の製造承認申請を発表 
2008年12月12日 13時52分-NSJショートライブ

[要訳&コメント]
第一三共株式会社は11日、同社が高血圧治療薬として開発したアンジオテンシン2受容体拮抗薬(ARB)オルメサルタンメドキソミル*と、カルシウム拮抗薬アゼルニジピン*の配合剤「CS-866AZ」の製造販売承認申請を行ったと発表した。
「CS-866AZ」は「オルメテック錠」と「カルブロック錠」の配合剤であるが、これまでの臨床試験成績から同2剤はそれぞれの単剤よりも良好な降圧作用を示すことが明らかとなっているという。
参考記事:高血圧治療薬CS-866AZを国内製造販売承認申請へ (ケアネット)

高血圧症治療薬の新薬が販売されそうです。オルメテックとカルブロックはおなじみの名前であるが、この配合剤はさらに効果が高いことで期待を寄せられている。副作用の軽減などの点は記載されていないことから、従来の副作用が臨床試験においても出ているということだろうか。
*オルメサルタンメドキソル
商品名:オルメテック
効能効果:アンジオテンシンⅡ受容体拮抗性の降圧剤
副作用:血清カリウムの上昇と異常な血圧低下によるふらつき,めまいなど
*アゼルニジピン
商品名:カルブロック
効能効果:持続性Ca拮抗剤系の降圧剤
副作用:頭痛,動悸,顔のほてり,ふらつき,めまいなど

質問すると医師が不機嫌に
2008年12月12日-毎日新聞

[要訳&コメント]
質問内容:閉経後汗が出て、頭痛、不眠、不安感もあり、婦人科で更年期と診断されてホルモン補充療法を始めました。エストロゲン剤を毎日1錠と黄体ホルモン剤2錠を月に14日間飲んでいますが、黄体ホルモン剤を飲むと頭痛や気分の落ち込みがあり、医師に半量でいいか尋ねると、急に不機嫌になって質問できない雰囲気です。疑問を持ったまま治療を続けたくはないのですが。(52歳、女性)

ホルモン補充療法では、子宮がある人の場合には子宮体がんのリスクを減らすため、黄体ホルモンを併用して生理のような出血を起こさせます。しかし、黄体ホルモンの作用で胃のむかつきやむくみ、気分の落ち込み、頭痛などの不快な反応が起こることも、この治療を始めたころにはきかれます。しかし、しばらく続けるうちにそうした反応は緩和されていく例が多いようです。最近では従来の半分の量のエストロゲンを用いる低用量のホルモン補充療法もすすめられており、その場合の黄体ホルモンの量についても話のできる詳しい医師に相談したいところです。

薬の服用において、医師や薬剤師との信頼関係を築くことはとても重要になってくる。不安を抱えたままでは、薬の心理面での効果が得られず、本来の薬の力を発揮されないのは愚か、薬の服用をやめてしまうことも考えられる。可能のであれば、もっと親身に考えてもらえる医師を新たに探されることをアドバイスしたいが、立地的な問題などからそれも難しいと考える患者が多いのが現状だ。副作用などに関しては、一度薬局の薬剤師に相談してみるのもよい。経験年数の短い薬剤師には難しい内容かもしれないが、詳しい薬剤師と話したい、と注文すれば親身に相談に乗ってくれる薬剤師がいるかもしれない。薬剤師達は、そういった悩みに自信を持ってこたえられるよう、しっかりと知識を蓄えておくことが大切なのではないだろうか。あなたはどんな方法で知識をアップデートしているでしょうか。

おまけ...レセプトオンライン請求

オンライン請求の義務化撤回求め初の提訴へ 
2008/12/11 20:43-キャリアブレイン

[要訳&コメント]
全国で初めてレセプトのオンライン請求義務化の撤回を求めて国を訴える原告団が、神奈川県保険医協会の会員を中心に結成される。12月26日に「レセプトオンライン請求義務化撤回訴訟原告団」の結成総会を開き、来年1月に横浜地裁に提訴する。
義務化されれば、約12%の会員開業医が辞めるというアンケート結果もある。といったアンケート結果に基づき、高価な機器やソフトを導入するコストに見合ったインセンティブがないことや、紙の請求と比べて情報漏えいの被害が甚大になること、レセプトの審査基準が厳しくなることなどを反対理由として挙げている。
参考記事:60歳以上開業医の約3割が「辞める」-オンライン請求義務化(キャリアブレイン)

レセプトオンライン請求義務化に対し、今まではそれぞれの立場からの意見、という形でしか見えなかったが、とうとう提訴という形で動き始めている。Saya's 薬学ニュース vol.30Saya's 薬学ニュース vol.29Saya's 薬学ニュース vol.11Saya's 薬学ニュース vol.5等でもレセプトオンライン請求に関する記事を紹介してきたが、オンラインシステムについていけない保険医達の定年制を進めたいという厚労省の思惑があるかもしれない、という内容には少し驚かされた。地域医療を支えているのは、年を老いていたとしても立派な医師たちである。医師不足の危機に面している中で、よくもそんな考えが働くものだ、と少しがっかりである。何故定年制を進めたいと考えているかに関しても勉強する必要があるが。。


おまけ...ビデオ講座紹介-ケアネット(※ケアネットにはメンバー登録が必要です)

「うつ病の完全寛解を目指した薬物療法 Part.1」 12月公開
うつ病の薬物治療の基本をビデオで優しく解説!
医師が講師として行っているので、内容も分かりやすく聞きやすいものだと思います。

*非常に貴重なコメントをいただきました。
とても勉強になる内容ですので、こちらもぜひご参照ください。
匿名さんからのコメント

4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

日本医療機能評価機構についてですが・・・

簡単に言うと天下り組織で、病院の評価には規模にもよりますが数百万とかを要求されます。そんなところに評価してもらう必要性ってありますか?
・・・そこから送って来るDMもゴミ箱直行です。

匿名 さんのコメント...

費用は導入コストから維持費に至るまで、全部医療機関持ちで義務化というのが問題なのです。
開業医は金持ちってのが、そもそも作られたイメージ。 実態は火の車って所も少なくない。

医科ではもう僅かはマシですが、歯科では5軒に1軒は年収300万以下のワーキングプアも。 厚労省統計や複数経済誌にも特集されていたりします。
(例)http://www.j-cast.com/2007/07/22009512.html
そこで、年収300万以下に自前で300万の設備投資しろって言われるのです。
(国民医療費の内訳では、歯科は調剤薬局に抜かれていますし、産婦人科や小児科は柔整に抜かれています)

現在までにも、ネット通販にはじまって、住基ネットまで情報漏えいはたくさんあります。 一度流出したデジタルデータは消せないし、永遠にp2pあたりを漂流します。 それに、開いただけで感染するHPも有るし、ネットを知っている人ほど、 その怖さも知っていますから、IT知識の有る人が使うのならまだ良いのだけれど、 ITシロウトの(特に御高齢とは限らない)医者や事務員が使うケースも少なくないと思われるので、全国の全医療機関でオンラインとなると、必ず流出事故は起こるべくして起こるでしょう。 病歴データが流出したら、それこそどうなるか・・・。確実に医療機関の個別責任となるでしょう。

無料配布が建前の日医の日レセ(ORCA)にしたって、内部では日医総研にデータを送るコードが入っているデータマイニングマシンだし、今度日歯が出すのにしてもおそらく似たようなもの?それにサポート会社に保守契約すると、とても高価です。

請求用の機械だから、民生用の廉価パソコンでは故障対策もあり、最低RAIDやバックアップサーバ、どうしてもの時の業者代替機貸し出しも含めると、ハードとソフトで300万という初期価格や月5~10万円の維持費も(少しぼられている気もするが)仕方がないと思えるけど、その費用を医療機関が持つ必要が、医療機関には全くない。
維持費にしても、情報漏えい時の保険も含めた安全対策費用まで考えると、いったい幾らかかるやら。

それから代行入力という抜け道が有るように言われますが、医師会に入っていない医師はどうするのか?都市部だと初期費用2~300万の入会金とかの問題もあり、歯科医師会に至っては組織率5割を切ります。
それに、代行入力だって情報漏えいリスクはより高くなる(過去の会社等での漏えいの多くが下請け会社で起こっている)上に、無料ではなく、特定健診を例にすると1件500円を医療機関が取られます(注:地域によって金額は異なります。また、例えば国保連合会が半額~全額持つという所もあったりはしますが・・・)

IT化のメリットも認めない訳ではないが、やりたい所がやるとかの手挙げ式ならば兎も角、それを一介の省令で強制される事が問題なのです。

匿名 さんのコメント...

何故定年制を進めたいと考えているかについては、

医療費亡国論と、それに続く「医師の数とフリーアクセスと医療費が比例するので、医師を減らせば医療費が抑制できる」とした行政の考え方が有る為だと思われます。

でも、必ず開業医は何年もの大学と関連病院での勤務医の経験が有るし、昔の医局制度下では僻地経験も有った筈なので、最近の立去型サボタージュも含めた開業医は、少なくともそんなには若くはない・・・特に僻地とまでは言わないけれど、地域医療を支えている町医者さんは、それなりに高齢であることが少なくないので、彼らが開業の継続を断念すると、入院の可能な中核病院とかがない地域での医療が根絶するエリアが出る恐れがあります。

Saya さんのコメント...

>匿名さん

誠に貴重なご意見及び情報を記載していただきありがとうございます。
内容から現場で働かれている方とお察しいたします(?)が、匿名での記載でしたので、この場でお返事させていただきます。

●日本医療機能評価機構
天下り組織であることも全く知りませんでした。記事に記載されていた「無料で配布」という内容も、数百万の費用をかけて評価を依頼した際に得られる見返りのようなもの、という意味で無料なのでしょうか。
米国の民間組織医療施設認定合同機構(JCAHO)の日本版という見方から、病院を評価する唯一の機関であると思っておりましたが、その評価の正当性も定かではない、というのは少し驚きました。

●歯科医師-オンラインレセプト請求義務化
貼り付けて下さいました記事を拝見させていただきました。こんな現実だとは知らず…
オーストラリアに住んでいた時は、歯科医師の収入は医師以上である、とうかがっていたので、日本でも同じようなものと勘違いしておりました。薬剤師同様、人員過多になってしまっているのが問題のようですね。

●医師不足オンラインレセプト請求義務化
私も、個人的に義務化というのが納得いっておりません。もちろんオンラインにすることによる利点もあると思われますが、犠牲の部分が軽視されているように感じるからです。
おっしゃる通り、地域医療を支えてきた多くの医師が現場から去らなければならない状況を作りだすことには賛成できません。そこまでの犠牲を払った効果があるようにも思えません。
個人情報流出に関してもおっしゃるとおりだと思います。電子カルテの時にも問題になった内容だと思います。これが院内だけでなく、他の組織とのネットワークにまで広がれば、どこかから漏れるのは明らかですね。

●初期費用-オンラインレセプト請求義務化
初期費用が最もネックになっている事はコメントを拝見させていただいてより深く知ることができました。ありがとうございます。これだけの費用がかかるのに、補助もなしに義務化を押しつけるというのも不思議な話ですね。そこまでオンライン化を進めたがる本当の意図はどこにあるのでしょうか。より深く知りたくなりました。

●医師の定年制-オンラインレセプト請求義務化
確かに、日本の医療においては、患者は医師にかかりすぎのように感じます。何か調子が悪ければ行くのは病院。ただの風邪でも、何かあるのでは?と心配になってかかるケースが本当に多い気がします。海外に住むようになってより感じました。
これは皆保険に守られている国であることと、家庭医システムが整っていないため、いつでもどこでも病院にアクセスが可能であることが理由に当たると思います。
私が居住したオーストラリアやカナダでは、病気にかかったら家庭医にかかるのはもちろんですが、ちょっとした症状ならば薬局に来るのが一般的です。家庭医の予約が急に取れない、という理由もありますが。薬剤師に症状を相談し、医師にかかる必要がありそうか、市販薬で様子を見るほうが適切か、そのような訓練も薬学の教育で受けているようです。今の日本の薬学教育ではそれができるとは思えませんが、医師が不足している中で、いかに病院の負担を減らせるかは、この部分でもあると思います。
システムや人々の考え方(啓発)を行っていくことでも、まだまだ医療費抑制につなげられると思うのですが…時間はかかりますがオンライン請求義務化に費やす費用と時間のことを考えると、より意味のあることのように思っているのは私だけでしょうか。

とても貴重なご意見を、時間をかけて記載していただき本当にありがとうございます。こえらのトピックにお詳しい方のようで、とても勉強になりました。匿名での記載でしたので、直接お礼をお伝えできず非常に残念です。
今後も、このようにご意見を頂ければ大変うれしく思います。勉強させていただければと思います。それでは、失礼させていただきます。